■海外で育つ子どもが経験していること
「日々ストレスを感じていて、両親にキツイことばかりを言ってしまう自分を変えたい」という主訴で高校生とカウンセリングしたことがあります。
アメリカ生まれ、アメリカ→ヨーロッパ育ち、日本人母とヨーロッパ父の間で育った彼女は、3か国語を流ちょうに操り、かなりのレベルに到達している趣味を持ち、複数国の大学受験にチャレンジする準備をしている優秀な女性でした。友達のこと、大好きな趣味のことを話す中で、彼女の言葉と表情のズレが気になり、話を聞いていくことでたどり着いたのは、彼女のストレスの根っこでした。
ひとつめは、何度も何度も友達と出会っては別れることを繰り返す喪失体験でした。ふたつめは、彼女がずっと続けているかなりのレベルに到達している習い事についてでした。アメリカでの評価軸で技術を磨き続けてきた彼女は、引っ越し後、その技術、手法がヨーロッパではほとんど評価されないことに愕然としたことを語りだすのです。アメリカでの評価軸とヨーロッパでの評価軸の相違により、どう打ち込んでいいのか、方向性を見失ってしまった混乱、悲しみがそこにはありました。それも一つの喪失体験と言えるでしょう。
知的な彼女は自分の人生の価値を理解していました。3か国語話者としていくつもの文化で暮らす経験ができたことを親に感謝するべきだと頭は理解しながらも、なぜか苛立ち、感謝とは真逆の言動を親にしてしまう自分を責め続けていました。自分のストレス、悲しみの根源に気づき、それに触れることができた彼女は、思春期という自身の内側の複雑な変化を抱えながら、今、複数の異文化に身を置き、複数の価値観に自分を調整させ続けながら成長している負荷と葛藤に気付き、自分のがんばりを認めることができました。そんな頑張る自分に与えるご褒美と、自分のストレスを発散する適切な方法を一緒に考えだし、毎日の生活で実践することでカウンセリングを終えました。
海外で育つ子ども達は思春期という子どもから大人に移行する複雑な身体的感情的な変化に加えて、異文化間での価値観の葛藤の中、新しい価値観に適応しサバイブするために馴染みのあるものを手離す喪失経験を連続的に経験しながら育っている最中なのです。
今日は選択日和 いのうえ
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